新潟地方裁判所 平成2年(わ)138号 判決 1990年10月15日
本籍
新潟県小千谷市大字南荷頃二九一二番地
住居
右同所
会社役員(養鯉業)
間野實
昭和一七年二月一日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官粂原研二出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、新潟県小千谷市大字南荷頃二九一二番地において「大日養鯉場」の名称で錦鯉の生産販売業を営んでいたものであるが、所得税を免れようと企て、錦鯉の販売代金の多くを仮名、借名で預金するなどして所得を秘匿したうえ
第一 昭和六一年分の実際総所得金額が四九〇二万四四七三円であつたにもかかわらず、昭和六二年三月一三日、新潟県小千谷市生乙七二五番地の三小千谷税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が四五〇万円で、これに対する所得税額が二二万〇五〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右同年分の正規の所得税額二一八八万五八〇〇円と右申告税額との差額二一六六万五三〇〇円を免れた
第二 昭和六二年分の実際総所得金額が九二八九万四六一〇円で、分離課税による短期譲渡所得の損失が四四一万〇三三七円であつたにもかかわらず、昭和六三年三月一一日、前記小千谷税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が四三五万円で、これに対する所得税額が二一万二七〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右同年分の正規の所得税額四四五四万七四〇〇円と右申告税額との差額四四三三万四七〇〇円を免れた
第三 昭和六三年分の実際総所得金額が一億二五九九万一六一八円であつたにもかかわらず、平成元年三月一三日、前記小千谷税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が四九八万円で、これに対する所得税額が二六万一六〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右同年分の正規の所得税額六五一六万一九〇〇円と右申告税額との差額六四九〇万〇三〇〇円を免れた
ものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 間野澄子の大蔵事務官に対する質問顛末書
一 大蔵事務官作成の現金調査書、預貯金調書、棚卸金額調査書、売掛金調査書、受取手形調査書、貸付金調査書、有価証券調査書、土地調査書、減価償却資産調査書、繰延資産調査書、事業主貸調査書、買掛金調査書、未払金調査書、借入金調査書、事業主借調査書、事業専従者控除調査書、元入金調査書、事業専従者控除前申告事業所得調査書、増差所得合計調査書、利子所得調査書、雑所得調査書、総合短期譲渡調査書、分離課税の短期譲渡所得調査書、預貯金調査書と差押第五二号との差額調査書
一 小千谷税務署長作成の回答書
一 検察事務官作成の電話聴取書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書三通
一 検察官作成の「税額の算出について(報告)」と題する書面
(法令の適用)
被告人の判示各所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択したうえ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、錦鯉の生産販売業を営む被告人が、折からのブームに乗り多額の利益を上げながら、昭和六一年から六三年までの所得税について、合計二億五〇〇〇万円余りの所得を秘匿して合計一億三〇〇〇万円余りにも上る多額の所得税を免れたという事案であるところ、右のように逋脱税額が多額であるばかりか、その逋脱率は、いずれも九九パーセント前後にも及ぶという著しく高率のものであり(逆にいえば申告総所得額の実際総所得額に対する割合は一パーセント前後という低率のものであり)、しかも、経営の実体を見ると、会計帳簿を一切作成せず、請求書、領収書等もほとんど保管しないなど、極めて杜撰な経理を行う一方、販売した錦鯉の代金の多くを借名あるいは仮名で預金して所得を隠匿し続けてきたのであつて、その納税倫理の欠如は甚だしく、また、犯行態様は悪質であるという他はない。加えて、被告人は、昭和六三年八月から全日本錦鯉振興会の理事を勤めるなど業界の要職にあつたのであり、このような立場にある被告人による本件逋脱事犯の、誠実に納税義務を尽くしている一般市民に与える影響も看過しえないこと、などをも考え合わせると、被告人の責任は重大であるといわなければならない。
しかしながら、被告人は、査察後、本件を深く反省して脱税の事実をすべて認め、税務当局の調査や検察庁の捜査に素直に協力しているうえ、修正申告を行い、正規の所得税額、重加算税及び延滞税等を完納しており、また、二度と逋脱行為を繰り返さないように、事業を法人化し、税理士の指導を受けて経理の明朗化に勤めているのであり、そのほか、被告人は二〇年余りにわたつて養鯉業に力を注ぎ、錦鯉品評会でたびたび賞を獲得するなど業界において高い業績をあげていること、被告人には前科前歴がまつたくないことなどを考慮すると、被告人に対する懲役刑についてはその執行を猶予するのを相当と認め、主文掲記の量刑をした次第である。
(裁判官 森眞樹)